2014.6.22 キリスト教横浜集会を訪ねて

 

静岡県 西澤正文

 

 2010年度から24年間、キリスト教独立伝道会の会長職の仕事をさせていただいた。就任した年の11月、この集会に招かれ、退任した今、再び招かれた。会長職と横浜集会は、何か不思議な縁があるような気がする。

 

 初めに、最初の前回4年前で話した内容を振り返った。「先生方の話す内容よりもイエス・キリストを信じる先生方自身の真実な姿、神に向き合う姿勢のワンシーンを心に刻むこと、このシーンこそいつまでも目に焼き付き、心の支えになる、そのように思っている。」と語った。

 

 今回80編を学んだ。中心聖句は、15節「万軍の神よ、立ち帰ってください。天から目を注いで御覧ください。」であり、テーマは、北イスラエルの滅亡に同情し、神の顧みを期待する詩人の願いである。

 

 1【指揮者によって。「ゆり」に合わせて。定め。アサフの詩。賛歌。】  2イスラエルを養う方 ヨセフを羊の群れのように導かれる方よ 御耳を傾けてください。ケルビムの上に座し、顕現してください  3エフライム、ベニヤミン、マナセの前に。目覚めて御力を振るい わたしたちを救うために来てください。 4神よ、わたしたちを連れ帰り 御顔の光を輝かせ わたしたちをお救いください。 

 イスラエルを羊の群れのように導かれる牧者よ、願いをお聞きください。聖所の大切な契約の箱を守られるケルビムのように、今、北イスラエルの主要な部族エフライム、ベニヤミン、マナセ族の前に現れてください。私たちを救うため駆けつけてください。そして天上から私たちを見つけ出し、救いの手を差し伸べ、この困難な所から連れ出してください。捕囚の身となった私たちを国へ帰し、復興の復興にあたらせてください。どうか今すぐ私たちを束縛から解放してください。 

 今年に入りニュースで「袴田事件」が取り上げられる。公権力執行機関・検察庁の誤った取り調べにより袴田巌さんは、死刑囚として48年間自由を奪われた。私の地元で起きた事件ということもあり、ローカルニュースでも何度も報道された。“束縛からの解放”ほど尊いものはない。 

人間にとって、この詩人の叫びの声を聞き、丸くなった背中でとぼとぼ歩く袴田さんを見るにつけ、自由の尊さを改めて思う。

 

 5万軍の神、主よ、あなたの民は祈っています。いつまで怒りの煙をはき続けられる

のですか。 6あなたは涙のパンをわたしたちに食べさせ なお、三倍の涙を飲ませられ

ます。 7わたしたちは近隣の民のいさかいの的とされ 敵はそれを嘲笑います。 8万軍

の神よ、わたしたちを連れ帰り 御顔の光を輝かせ わたしたちをお救いください。

  神様、いつまで私たちを顧みないのですか。早く振り向いてください。私たちを見つめてください。右も左もわからぬ異郷の地に連れて来られ、知人は一人もいなく、生活、文化も違い、肩身を狭くして生活しています。私たちは悲しみに直面し、ずっと涙を流し生活してきました。今までどれ程涙を流してきたことか。絶えず近隣部族の争い事に巻き込まれ、神経を使う上、馬鹿にされてきました。心細い上に疲れ果てました。早く救いの手を差し伸べ異郷の地から連れ帰ってください。 

 もう30年以上経つだろうか、政池仁先生が「忘却の海峡」という映画の自主上映会を静岡市で開きたいとの連絡を受け、県中部の聖書集会代表が集まり話合いを持った。この映画は、朝鮮の方々が日本軍によって樺太に強制連行され、石炭掘りなど燃料補給のため労働を強いられた。戦争が終わっても祖国に帰れず、歴史の彼方に忘れ去れようとしている人々がいる実態を描いたのであった。時代は異なっても北イスラエルの民と朝鮮の方々の姿が重なる。

 

 9あなたはぶどうの木をエジプトから移し 多くの民を追い出して、これを植えられ

た。10そのために場所を整え、根付かせ この木は地に広がりました。 11その陰は

山々を覆い 枝は神々しい杉をも覆いました。 12あなたは大枝を海にまで 若枝を大河

にまで届かせられました。 13なぜ、あなたはその石垣を破られたのですか。 通りかか

る人は皆、摘み取って行きます。 14森の猪がこれを荒らし 野の獣が食い荒らしていま

す。  

今、捕囚の身となり異郷の地で生活している我々だが、振り返れば、イスラエルの地で生活を始めたのは、あなたによりエジプトを脱出し、カナンの地に入植したのです。丁度あなたにより葡萄の苗木が持ち出され、カナンの先住民を追い出し、その地に苗木を植えたのです。そしてあなたの懇ろな手入れにより、スクスクと成長しました。葡萄の枝はカナンの山々を、北はレバノンまで、西は地中海、東はユーフラテス川まで周辺を広く覆った。あなたの守りの中で豊かな恵みを受けつつ生活したのに、あなたは垣根を取り除き、周囲の部族が侵入し、略奪されたのだ。 

 人は、普段あまり気づかないが、当然と思っている日々の平安と生活の糧、資産を失ってみて、改めてその大切さに気が付く。2011年3月11日、日本は東日本大震災に見舞われ、全国民が震えた。地震、津波、火災、原発放射能漏れと次々と現地の被害状況が報道された。残ったのは、2万人余の犠牲者、家族離散、消えた郷里、資産・雇用先喪失、生活基盤・人間関係の消滅等など。被害の根源となった原子力発電所の存在、これは関東、東北広域圏住民の電気供給基地としての役割を担った。広域住民のために発電所のある地元が犠牲になった。事故から3年半経過したが、日本は「脱原発」の道が選択できない。悲しい。犠牲者がまだ少ないというのか。これでは犠牲者が浮かばれない。被災地は泣くに泣けない。孤独感を深め、日本という国に不信感を抱き始めているだろう。人間は、自己中心的考えを拭うことはできないのか。被災地の人々は、北イスラエルの民同様、この上ない淋しさ、悲しさを胸に沈め、忍耐の上にさらに忍耐を重ねた生活を今も送っている。。

 

15万軍の神よ、立ち帰ってください。天から目を注いで御覧ください。このぶどうの木を顧みてください 16あなたが右の御手で植えられた株を 御自分のために強くされた子を。 17それを切り、火に焼く者らは 御前に咎めを受けて滅ぼされますように。 18御手があなたの右に立つ人の上にあり 御自分のために強められた 人の子の上にありますように。 19わたしたちはあなたを離れません。 命を得させ、御名を呼ばせてください。 20万軍の神、主よ、わたしたちを連れ帰り 御顔の光を輝かせ わたしたちをお救いください。 

「神よ、どうか振り向いてください。支援の手を差し伸べてください。」、平安な日を失って、あなたの偉大さに気づき、私たちの無力さ、弱さを思い知らされました。我々はあなたから見捨てられたら何もできない無力な者です。あなたの御手の中で命が守られていることに気づきました。今までの傲慢な生活を反省します。そうぞ、弱い私たちに救いの手を差し伸べてください。 

 今年4月、偶然自動車走行中、ラジオから「世界の名演説」を聞く機会に恵まれた。3人の紹介があり、最初がリンカーン大統領、次に西ドイツ・ワイツゼッカー大統領、最後にアップル社創業者・スティーブ・ジョブズを伝えた。ジョブズ氏は2011年、すい臓がんで亡くなる。がんの手術を終え、再起の希望が蘇った中、ある大学卒業式で演説した。「毎日、今日が人生最後の日として生きた。今日死ぬとしたら何をするのか、本当のことをするのか。死を前にすると、プライド、恥など、どうでもよい、それらは消える。あなたの時間は限られている。だから他人の人生を生きたりして無駄に過ごしてはいけない。ドグマ(教義、常識、既存の理論)にとらわれるな。それは他人の考えた結果で生きていることなのだから。他人の意見が雑音のようにあなたの内面の声をかき消したりすることのないようにしなさい。そしてもっとも重要なのは、自分の心と直感を信じる勇気を持ちなさい。それはどういう訳かあなたが本当になりたいものを既によく知っているのだから。それ以外のことは、全部二の次の意味しかない。誰も死ぬことなんて望まない。天国に行きたいという人でもそのために死にたくはないのです。最後に言います、“Stay Hungry and Stay Foolish”(ハングリーであれ、愚か者であれ)」。大学を去る学生を前に、各自の心底の声に耳を傾けよと訴え、万雷の拍手を浴び降壇。そして間もなく世を去った。

 

□まとめとして 

目の前に苦難が生まれると人はどうなるのか‥‥、本当の自分とは何かを求め、徹底して自分に向き合う。詩人もスティーブ・ジョブズ氏も苦難の前に立たされ、真摯に向き合った。そのために、余分なものをそぎ落とし、生活を単純化し、人間関係を整理した。 

詩人は、その中から、鮮明な神の姿が見えた。他人を意識せず、徹底して真実の、心からの感情をぶつた。「神様、神よ、主、主よ、そして‥‥あなた」と、型にはまらず、時に厳格な神に、時に父のような神に、そして身近な友のように向き合った。私も詩人、ジョブズ氏の後に続きたい。